脳磁図とは何か?
要旨:脳磁図について、管理者の考える定義、邦訳の曖昧さ、および諸家の定義について述べる
目の前にいる患者・被検者の脳のどこに・どんなに電流が流れているのか? 臨床において、あるいは脳科学において、これは是非とも知りたい。それも非侵襲的な方法で正確に知ることができれば最良だ。電流は磁場を発するのだから、脳磁場を測定すれば脳電流を知ることができるのではないか?
脳磁図 magnetoencephalography (MEG) とは、
“脳が発する磁場を測定することで、
脳に流れる電流を議論する方法論”
“A methodology to discuss the current flowing in the brain
by measuring the magnetic field the brain emits”
と管理者は定義する。
以下ではさらに、脳磁図という概念の曖昧さ、諸家による脳磁図の定義を述べる。
邦訳について
脳磁図 magnetoencephalography (MEG) という用語はやや曖昧に使用される嫌いがある。
臨床現場では脳磁図の解析結果 the result of analysis of MEG を脳磁図と慣例的に読んでおり、脳に電流双極子がいくつか重畳している図が脳磁図の一般的なイメージであろう。
ところで脳磁図は magnetoencephalography の邦訳だが、接尾辞 -gram, -graph, -graphyに応じて文法的に変化する。その意味は、
- Magnetoencephalogram(脳磁計から出力される磁場データ、波形)
- Magnetoencephalograph(脳磁計)
- Magnetoencephalography(脳磁場を計測する方法論、検査)
だが、ほとんどの場合は magnetoencephalography という用語しか使われない。実際のところ、” ” をつけて行った Google + PubMed 検索(2022年9月)の結果は、
- Magnetoencephalogram(209,000 + 357 件)
- Magnetoencephalograph(7,300 + 30 件)
- Magnetoencephalography(692,000 + 11,025 件)
となっている。
波形を意味すると強調したいときは magnetoencephalogram、計測機器を意味すると強調したいときは magnetoencephalograph と記述するのが良いように思うのだが、そこまでの使い分けはされていないようだ。特に magnetoencephalograph という用語は一部の企業が好んで用いているのを除けばほとんど使用されていない。
以上をまとめると、脳磁図は
- 脳に電流双極子を重畳した解析結果
- 脳磁計から出力される磁場波形
- 脳磁場を計測する方法論
のいずれかの意味で使用されていることが多いので、混同しないように注意が必要だ。
諸家による脳磁図の定義
諸家による定義は様々で一定しない。同じような事を言っているようにも見えるが、比較的自由に定義しているようにも見える。特に最近のガイドラインとなると脳磁図 magnetoencephalography という用語を定義せずに使用していることも多い。
過去には、SQUID という用語を定義に含めるものもみられた。SQUID は過去 50 年に渡り主流かつ支配的なセンサーであったものの、これは測定手法の一つに過ぎない。2023 年現在では optical pumped magnetometer (OPM) や tunnel magneto-resistive (TMR) といった新世代のセンサーが登場しつつある。
注)SQUID (Superconducting Quantum Interference Device) 超電導量子干渉素子。ジョセフソン接合を回路に組み込んだ超電導技術で、10 fT(フェムトテスラ) という極めて微細な磁気の測定が可能である。外部磁場を遮断するシールドルームと組み合わせることでヒトの微弱な脳磁気を測定することが可能となった。
以下、代表的な諸家による定義を列挙する:
「脳が発生する磁場信号を脳磁場=脳磁図magnetoencephalogramと記述する。脳磁場計測法magnetoencephalographyという意味でも使われる(原宏・栗城真也共編(1997)脳磁気科学―SQUID計測と医学応用―,オーム社,p.126)」
「神経の活動電流による微小な磁気信号を、計測装置によって記録、画像化したもの(日本臨床脳磁図コンソーシアム(https://www.clinical-meg.org/index.html))」
“Magnetoencephalography (MEG) is a neuroimaging tool which obverts functional brain maps or pathognomonic signs with millisecond order. (Shozo Tobimatsu, Ryusuke Kakigi. Clinical Applications of Magnetoencephalograpy. Springer 2016. P.v,3.)”
「脳磁場計測装置(脳磁計と略称される)を用いて脳内の電気活動に伴って発生する磁場活動を記録したものである(臨床神経生理学 33巻2号、2005年 p.69-)」
「脳の電気的な活動によって生じる磁場を超伝導量子干渉計 (SQUIDs) と呼ばれる非常に感度の高いデバイスを用いて計測するイメージング技術である(Wikipedia日本語版(2022年9月))」
“MEG is a functional neuroimaging technique for mapping brain activity by recording magnetic fields produced by electrical currents occurring naturally in the brain, using very sensitive magnetometers. (Wikipedia 英語版(2022年9月))”
A completely noninvasive procedure that uses an array of highly sensitive sensors to detect and record the magnetic fields associated with electrical activity in the brain. (The HP of American Clinical Magnetoencephalography Society)