Sensors in the future

要旨:脳磁計のセンサーは SQUID しかない状態が半世紀続いてきたが、次世代のセンサーも開発されつつある

 

脳磁場を測定する実用的で商業的に入手できるセンサーは、1972 年 [1] から現在(2023 年)に至るまで、SQUID しかない状態が半世紀続いている。この SQUID センサーに基づいた脳磁計は少なくとも以下の3つの問題を抱えており、臨床現場で実際に運用するのは大変なものとなっている。

 

  1. 液体ヘリウムを消費するのでランニングコストが高い
  2. センサーを頭部に装着することができないので測定中は頭部を全く動かせない
  3. シールドルームを要するので専用の部屋が必要

 

問題 1 には現行でも商業的に対応可能で、ヘリウム回収装置が販売されている。というのも、財務省貿易統計によれば、ヘリウム(品別コード 280429100)の輸入価格は急騰しており、2002 年時点で 1,930 円/kg だったものが、2022 年時点で 11,493 円/kg と、20 年間で 6 倍に跳ね上がっている(下図)。

参考までに、管理者の施設で 2023年3月まで使用していた Neuromag system は導入時の名残で回収装置が無く、1 週間で 100 L の液体ヘリウムが無くなっていた。1 気圧での液体ヘリウムの沸点は -269 ℃、密度は 0.125 kg/Lとなっている。当然ながら企業の販売する液体ヘリウムは輸入原価に様々上乗せされる。

こうしたランニングコストの高騰に対応できず、脳磁図の施設は撤退が相次いでいる。本邦でまともに稼働している脳磁計は 2020 年頃には約 10 施設と言われていた。当然ながら、保険算定件数は、厚生労働省 NDB オープンデータによると、右肩下がりだ(下図)。

 

このように、従来の SQUID センサーに基づいた脳磁計はヘリウム回収装置が必須となっている。実際のところ、2023年6月現在運用している TRIUX Neo にはヘリウム回収装置が付属しており、ヘリウムのロスはほとんどない。とは言え、全ての現行の脳磁計に装備されているものでもないし、回収率については企業により異なるようだ。

 

問題 1, 2 に同時に対応しているものとして発展段階だが、光ポンピング磁気センサー optical pumped magnetometer (OPM) が挙がる [2]。

本邦の NANOXEED (Tokyo) の HP では、光ポンピング磁力計 モジュール QZFM Gen-3 と 専用の 64 ch ヘッドキャップ が入手可能としている。用途はあくまで「MEG(脳磁図)、MCG(心磁図)等の研究用途」となっており、その実力について今後の報告が期待される。

2023年5月24-27日に大阪で開催された ISACM 2023 OSAKA (International Society for the Advancement of Clinical Magnetoencephalography) では OPM のブースがいくつか設けられており、HEDscan system (FiledLine, Physio-Tech), QZFM Gen-3 (Nanoxeed), OPM-MEG system (Cerca, Quspin) が実際に展示されていた。担当者の一人から聞いた話では、センサーは Magnetometer だが頭部に密着させることができること、シールドルームを要するがヘリウムを必要としないことなどが利点とのことだった。なお、値段は1センサーにつき 100万円強~だそうだ。当然ながら本邦で保険適応はないが、今後は FDA で認証を目指すとのこと。耐用年数について担当者は 10 年、と自信を示していたが、他の企業からは1年程度ではないかという意見もあった。このあたりは実際に運用する機会が無いとわからない。

 

問題 1, 2, 3 全てに対応しているものとして、さらに研究段階だが、トンネル磁気抵抗効果 tunnel magneto-resistive (TMR) センサーが挙がる [3]。将来的には常温で、センサーが頭部に密着し、シールドルームも不要なセンサーアレイを目指しているのだという。

このように SQUID に取って代わろうと新世代のセンサーが開発されている。しかしながら歴史的な事実として、脳磁計は莫大な利益をもたらす類のものではなかった点には留意すべきで、開発がゆっくりとしたものであってもユーザーは気長に待つことが要求される。

 

まとめ:次世代のセンサーは開発段階にあり、気を長くして待つ必要がある

脳磁計のセンサーがおおむね理解できたところで、次節ではセンサーの出力から信号だけを単離する信号処理について議論したい。

(引用)

  1. Cohen D. Magnetoencephalography: detection of the brain’s electrical activity with a superconducting magnetometer. Science. 1972 Feb 11;175(4022):664-6.
  2. Boto E, Holmes N, Leggett J, Roberts G, Shah V, Meyer SS, Muñoz LD, Mullinger KJ, Tierney TM, Bestmann S, Barnes GR, Bowtell R, Brookes MJ. Moving magnetoencephalography towards real-world applications with a wearable system. Nature. 2018 Mar 29;555(7698):657-661.
  3. Kanno A, Nakasato N, Oogane M, Fujiwara K, Nakano T, Arimoto T, Matsuzaki H, Ando Y. Scalp attached tangential magnetoencephalography using tunnel magneto-resistive sensors. Sci Rep. 2022 Apr 12;12(1):6106.

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